13 仲間と宿敵

Mission13 仲間と宿敵


 レイは、夢を見ていた。
それは悪夢だった。
周囲の全てが、暗くよどんでいる。
そこにいるだけで、息苦しさを感じるほどに。
――なんで……なんで、こんなにも苦しいんだ……
原因もわからぬまま、レイはただ苦しんでいた。
しかし、突然にして苦しみは抜けていく。

 夢の中に、サーナイトが現れた。
そして、ルナも。
「レイさん、ルナさん」
向こうから語りかけてくる。
「……セラフか」
実体のないサーナイト、セラフだ。
「今日は、あなた方にどうしても話さなければならないことがあります」
そう前置きした上で、話を始めてきた。
「運命の時が……間近に迫りつつあります」
「えっ!?」
「本当に!?」
2匹とも、黙ってはいられない。
「はい。この世界を救うというあなた方の役割は……
 もうすぐ、本当の始まりを迎えます」
セラフが続ける。
「そして、わたしの役割……あなた方を見守るという役割は、今終わろうとしています」
「……!!」
またしても、驚きを隠せない言葉だった。
「心して聞いてください」
セラフの表情が、いつになく真剣なものになった。
その両目は、レイを正面から見据えている。
「間もなく、あなたの前に……
 あなたの運命の鍵を握る、2匹のポケモンが現れるでしょう。
 一方は、倒すべき宿敵。もう一方は、かけがえのない仲間です」
レイは、その言葉を心に刻み込んだ。
「今いるあなたの仲間達も含めて、仲間を大切にするのです。
 そうすれば、道は開けます」
セラフの言葉を聞いて、レイとルナは互いに目を目を見合った。
仲間を大切にする――その意味を確認し合うように。
しかし、その様子を見るセラフの表情は、いつしか悲しみを帯びていた。
「どうしたの?」
セラフの表情に、ルナが気付く。
「すみません、少し昔のことを思い出しました」
再びセラフが話す。
「わたしにも、かけがえのない友達がいました。
 本当に大切な友達でしたが、どこかへ行ってしまいました……」
表情が暗くなっている。レイとルナは心配な気持ちになった。
しかし、それは無用な心配だった。
「でも、いつかまた会える……わたしは、そう信じているんです」

 その時だった。
静まり返っているウィンズの基地から、1匹の黒いポケモンが走り去っていく。
そのポケモンは、目に涙をいっぱいに溜めていた。
ダークネスだった。

 ダークネスは、ただ全力で走っていった。
――セラフ……!
今になっても、こんなオレのことを……!!
ひたすらに、走り続けた。
もはや涙は止まらなかった。
――オレは……オレは……!!

 夢の中で。
「私達なら大丈夫。みんなが一緒だから!」
ルナが穏やかに、しかし強く言った。レイも頷く。
「あなた方なら、安心です」
セラフは笑顔で応えた。
しかしその笑顔には、憐みのような表情も少し混じっていた。
「わたしが夢に出てくることは、この先ないでしょう。
 しかし、わたしはあなた方をずっと見守っています……」
それを最後に、セラフの声は聞こえなくなった。

 その日の朝のこと。
探検隊ウィンズのメンバー5匹は、基地で朝食を食べていた。
霧の湖から帰ってきてから、また少しの時が流れていた。
今日も、いつもと全く変わらない朝である。

そこに、外から羽音が聞こえてくる。
「手紙かな?行ってくる」
レイが席を外し、外に出る。
そして、ポストに入っていたポケモンニュースを取り出した。

しかし、戻ってきたレイが目にしたのは
なぜかうずくまっているロットだった。
「あれ?」
何があったのか、レイは仲間達に説明を求める。
「食べちゃったのよ……マトマの実をね」
ルナが、ため息混じりに言った。
レイが離れている間に、ロットはレイが食べようと用意していた木の実に
こっそり手を出していた。
だが食べた木の実は、普通のポケモンには食べられないマトマの実だった――
と、仲間達は説明した。
当の本人であるロットは、強烈な辛さに顔をひきつらせている。
水を大量に飲んでいるが、それでも辛さが引かないらしい。
「大丈夫か……と言いたいところだけど、盗み食いはちょっと許せないなぁ……」
だがロットにはレイの言葉を聞く余裕は無いようだった。
「た、た、た、助けてよー……」
必死で言葉を絞り出している。
口の中はまだ辛くてしょうがないことがうかがえる。
「しょうがない、これでどうかな」
そう言って、レイはロットの体の後ろに手を当てた。
「ぎゃああっ!?」
突然、ロットの体がびくっと跳ね上がった。
しかし。
「あれ?なんか楽になったみたい……」
なんと辛みが引いた。
その様子を見ていたルナ、グレア、イオンは、
なぜこんなことが起きたのか全く理解できないでいた。
「ふう、成功してよかったよ」
荒療治をやってのけたレイは、持ってきたニュースを読み始めた。
「なにっ!?」
その内容に、思わず声を上げてしまう。
「ドウシタ?」
イオンはレイからニュースを借りて読むが、一瞬にして固まった。

そのニュースには、重大なことが書かれていた。
時の歯車が……再び盗まれたのだ。
「今回盗まれたのは、マグマの地底にあった時の歯車。
 そこの最深部では時が止まっているらしい」
レイは、ニュースを見つめながら言った。
「コレ以上盗マレルト危険ダ」
「ええ。霧の湖のことは秘密に。改めて、みんな注意しましょう」
イオンが、そしてルナが言った。
「当然!」
ロットが元気よく返した。

 そんなふうにして、今日もウィンズの1日が始まった。
ポケモン広場を訪れた一行は、
その一角にポケモンが集まっていることに気づく。
「なんだ?」
近づいてみると、ポケモンの輪の中央に
見慣れないポケモンを発見した。
「あれ?ウィンズじゃないでゲスか?」
別のポケモンから話しかけられる。ファスだった。
「おはよう。ところであのポケモンは?」
レイは、気になっていたことを質問してみる。
その言葉にファスは少々びっくりした様子を見せながらも、説明を始める。
「ヨノワールさんでゲス。最近有名になった探検家でゲス。
 なんでも、世の中で知らないものは無いというくらい、いろんな物事を知っているらしいでゲス」
「ほう……」
ファスの説明を聞きながら、一行はヨノワールを見た。
集まっている広場のポケモン達と、いろいろな話をしている。
「あれ?レイさん?」
再び突然話しかけられた。
今度は、スティラとアリアの兄弟だった。
「久し振りね、元気だった?」
と、ルナ。
「はい。今ヨノワールさんと話していたところなんです」
スティラが話す。

 それからしばらく、ウィンズの5匹はスティラ&アリアと話していた。
「聞いて聞いて、もうすぐここに歌がうまくて有名なポケモンさんが来るんだって!」
そうはしゃぐのはアリア。
「探検家として、またシンガーとして、各地を旅しているそうです」
スティラが説明を加える。
「けど、もう到着していい頃なのに……」
「何かあったのかも……」
ぽつりと出てきた兄弟の言葉に、ルナは何かを思いついた。
「もし何かあったのなら……そうだ、掲示板!」
一行は、救助依頼の掲示板に急いだ。

 「あっ!あのポケモンさんだよ!」
ひとつの依頼が、アリアの目に留まった。
「えーと、なになに……?」
レイは依頼をチェックし始める。
依頼主はコロトックのトーン、遠吠えの森で道に迷ったので助けて欲しい――
という内容だった。
スティラは、レイの方を見た。
レイより早くグレアが、そのことに気づく。
「行くんだろ、レイ?」
「うん、行こうか」
反対するメンバーはいなかった。

 そういうことで、ウィンズは遠吠えの森を訪れた。
「なんだか遠吠えしてきそうなポケモンばかりだね……」
言いながら、ロットは周囲を警戒する。
その一方では、ルナのどろばくだんがデルビルを弾く。
「そうだ、イオン。ピントレンズの調子はどうだ?」
思い出したように、レイが問う。
「……感度良好」
イオンは、この日初めてピントレンズを装着して探検に出ている。
遠征でもらったものを改造し、実戦投入できるようになったのだ。
事実、今日のイオンは調子がよかった。
マグネットボムやラスターカノンを、次々と相手の急所に当てていく。
無言のまま、静かに狙いを定めるその姿は、狙撃手さながらだった。

 しばらく、特に何事もないまま探索が続いた。
「結構歩いたが、依頼主はどこだ……?」
その時だった。

ワオオオオーーーーン……

「と、遠吠え!?」
一行は即座に身構えた。
しかし、声の主はなかなか現れない。
代わりに、台詞が聞こえてくる……
「天が呼ぶ地が呼ぶ風が呼ぶ!」
「そして現れる黒い影!」
「大地を駆ける、疾風のごとく!」
「獲物を狩る、刃のごとく!」
その声は前後左右から聞こえてきた。声の主は単独ではない。
しかも、まだ続く――
「シビアでワイルドなカルテット!」
「しかと覚えよ、俺の名は!」
「エウロス!」
「ノトス!」
「ゼビロス!」
「ボレアス!」
ついに、主はその正体を現す。
「遠吠えの森に現れし!」
「噛みつき軍団、ここにあり!」
「グラエナ4兄弟、参上!!」

一連の台詞とともに、4匹のグラエナが現れた。
ウィンズの5匹は、一瞬にして取り囲まれた。
イオンを中心に、ルナとエウロス、ロットとノトス、レイとゼビロス、
そしてグレアとボレアスが、それぞれ正対する。
「お前らに聞きたい。ここに――」
一番前にいたグレアが問いかける。が……
「うるさいっ!」
ボレアスが一声のもとに跳ね返す。
「ここは俺達の縄張りだ!」
「獲物は……全て仕留めるっ!」
「覚悟っ!!」
他の3匹のグラエナも、闘争心をむき出しにしている。
彼らは一斉に飛びかかってきた!
「ちょっ……!」
「聞く耳なし!?」
「仕方ねえな!」
穏便な考えは捨て、ウィンズも戦闘態勢に入った。

 真っ先に、ノトスがロット目がけて襲いかかる!
鋭い牙が、ロットの小さな体を貫いた……ように見えた。
「なっ!?」
だがその目標は、突然にして消え去る。
ロットはノトスの真後ろにいた。かげぶんしんを発動し、一瞬で移動したのだ。
すぐさまロットが反撃を試みるが、ノトスはギリギリのところでかわす。
その時、激しい波動がノトスを、さらにはゼビロスをも吹き飛ばした!
横にいたレイが、2匹を巻き込んで水平に切り払ったのだ。
「まだまだ、これからっ!」
2匹のグラエナは、態勢を立て直して反撃に出る。

さらに横では、ルナがエウロス目がけてどろばくだんを撃っている。
後方からイオンの援護射撃もあり、エウロスを防戦一方に追い込んでいった。
一方でグレアはボレアスと距離を取り、骨を投げつける。
しかしそれは難なくかわされ、一気に距離を詰められる!
「覚悟しろ!」
「……ふっ!」
グレアの余裕に、ボレアスは一瞬戸惑った。
その隙を逃さず、グレアは小さくジャンプして2発の蹴りをボレアスの腹に見舞う!
「ぐえっ!」
受け身も取れず、ボレアスは地面にたたきつけられる。
かなり大きなダメージを受けているようだ。
「俺の武器が骨だけだと思うなよ」
骨をキャッチし着地してから、グレアが言った。

その後ろで、レイはなおもゼビロスとのバトルを繰り広げていた。
ゼビロスのかみつき攻撃が迫る!
それを見たレイは、開いているゼビロスの口に何かを投げ入れた。
すると!
「~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
ゼビロスは突然その場でのたうち回った。
「こういう戦い方もありだよね」
接近してくるゼビロスに、レイはマトマの実を食べさせたのだ。
いまだ辛さに苦しむゼビロスを尻目に、今度は自分の口の中にマトマの実を放りこむ。
レイは、自分の体内に力がわいてくるのを感じた。
その時、ルナとロットが同時にそれぞれの相手を遠くに跳ね飛ばしていた。
「よし!イオン、合体技でとどめだ!」
「了解!」
他の仲間達も、一か所に集まってくる。
レイとイオンのそれぞれが閃光を放ち、合体技サンダーストームを発動する!
「ぐおっ!」
それが、決定打になった。

 グラエナ4兄弟に、戦う力は残っていなかった。
「どう?まだやる?」
ロットは強気だ。
だが、4兄弟の目はまだ死んでいない。
すると!

ワオオオオオオオオオオオーーーーーーーーン!!!!

4兄弟は、一斉に遠吠えをした。
それに呼応するかのように、何かの足音が聞こえてきた。
「……ん?」
その足音は、地響きにも似た大きな足音だった。
だんだんと近づいてくるのが、ウィンズの5匹にはわかる。
次の瞬間、ドスンという大きな音が響いた。
「な……なんだ、こいつはっ!?」


 その頃、トレジャータウン。
カクレオンの店の前に、トーンの演奏を心待ちにしているスティラとアリアの兄弟、
そして、クルスとライリもここに来ていた。
彼らは店主のカクレオンを交え会話している。
「なるほど、それは楽しみですね。
 ウィンズなら安心できますものね!」
ウィンズがコロトックのトーンを救出に向かったと聞いて、カクレオンは安心している。
「皆さん、どうしたのですか?」
そこに、ヨノワールが現れ会話に入る。
「あっ、ヨノワールさん!」
カクレオンが真っ先に気づき、他のポケモン達もあいさつを交わす。
それから、今話していたことについてヨノワールにも話した。
「それで、ウィンズはどこに行っているのです?」
「遠吠えの森ですが……」
ヨノワールの質問に、カクレオンが間を開けず答えた。
しかしヨノワールの表情が、考え事をしているものに変わる。
「遠吠えの森……あそこには、確か……」
そして、ヨノワールは何かに気づいた。
「いけない!このままではウィンズが危ない!!」
「ええーーーーーーーーーーーーっ!!?」
ヨノワールの言葉に、他のポケモン達は1匹残らず仰天した。
あまりにも突拍子のない言葉だったのだ。
「私、これから遠吠えの森に行ってきます!」
その台詞とともに、ヨノワールは一直線にその場を離れていく。
「あっ、ちょっと!ちょっとぉーーっ!?」
カクレオンが叫ぶが、ヨノワールは立ち止まる気配も見せなかった。


足音の主、それは巨大だった。
高さだけでレイの5倍にもなり、横幅に至っては比較しようもない。
大きな腹を持つ、とても太ったポケモン――カビゴンだ。
「!!」
一行と、カビゴンの目が合った。
その目は開いているのかどうかもわからない、糸のような細い目だ。
だが、一行は直感でわかった。
――このポケモンは今、とてつもなく不機嫌だ!!!
「俺達のボス、ディック親分だ!とんでもなく強いんだぞ!」
「今は俺達4兄弟も含めて、腹が減っててものすごく機嫌が悪いんだ!
 お前ら、覚悟しろ!!」
4兄弟の台詞が終わるやいなや、ディックがウィンズに向けて突進する!
「ちょ、ちょっと待って!」
ウィンズは逃げようとしたが、ディックの動きはその巨体からは想像もつかないほど俊敏だった。
まっすぐに手を伸ばし、ロットを捕まえる!
「うわあああーっ!?」
「ロット!」
ロットはカビゴンの手の中に捕えられ、動くことができない。
動けないなりに目線を動かしてディックを見る。
すると、ディックの顔が近づいてくるのが目に入った!
しかも口を大きく開けている。
――こいつは今すごくお腹がすいてて……まさか!
ロットはある考えに至った。
「いやあああー!あたしなんか食べてもおいしくないよー!!!」
じたばたと抵抗するが、全くもって効果がない。
ディックは手の中のロットを、口の中に入れようとする。
だがその時、グレアの骨がディックの腕を強打する!
その衝撃でロットは逃れることができた。
落下していくところを、グレアが受け止める。
「ふえええ……」
よほど怖かったのか、ロットは今にも泣きそうな顔をしている。
「危ない!」
ルナの声が響くと同時に、グレアがあることに気づく。
目の前のディックが、今度は体ごと倒れこもうとしている!
「うおっと!」
グレアとロットは、間一髪のところでかわす。
「だからって、押し花にもされたくないよー!!」
その様子を見て、グラエナ4兄弟はせせら笑う。
「危なかったなー!ボスにつぶされたら、ペラペラの薄切りハムになっちまうぞー!!」
「そうだ、ハムだぞー!覚悟しろー!!」
ディックは、なおも突進をしかける。
ここまで黙っていたイオンが、ラスターカノンを撃ち出す!
銀色のレーザーは、ディックの急所に命中した。
「……!?」
しかし、ディックの表情は平然としたものだった。
強いて言えば、命中した部分がかゆそうな程度。
さすがのイオンも、これには驚きを隠せない。
「はあっ!」
今度はレイが、ディックの顔目がけて飛びかかる!
「……」
ディックは無言のまま、レイに向けて頭を突き出した。
「ぐ……っ」
ずつきをまともに受け、レイは大きく跳ね飛ばされた。
この一撃でノックアウト寸前だった。
「レイ、大丈夫!?」
「な……なんてパワーだ……」
ルナが駆け寄る。
「急所に集中攻撃ダ。ボクガ狙ウカラ、続イテクレ」
ウィンズは、イオンの作戦に懸けることにした。
イオンが再びラスターカノンを急所に命中させる。
「それ、次!」
レイが10まんボルトを、ルナがれいとうビームを放つ。
どちらの攻撃も、同じ場所に決まった。
「これで決めてやる!!」
「食べられたくなんか、ないっ!!」
そして、グレアとロットが直接攻撃を決める!
全員の攻撃が急所に命中し、さしものディックもひるんでいる。
そのまま後ろに倒れた。
「やったか……?」
グレアがそう言った時、ウィンズの全員は意外な音を耳にする。
それはディックの寝息だった。
「寝てる!?」
「マズイ!!」
イオンがそう言った時には、時すでに遅し。
眠ったことで、ディックの体力は完全に回復していた。
「こ、この糸目……」
「寝てんだか起きてんだか、はっきりしろよ!」
「なんだか、ますます不機嫌になってる気がする!!」
突然、ディックが暴れ出す!
地響きを巻き起こしながら地面を踏みならし、さらに突進を仕掛ける。
その標的は、イオンだった。
ディックの猛撃に、すっかり圧倒されてしまう。
逃げる他なかった。
だが、ディックのスピードはさらに増している。
イオンも他のメンバー達も、あっという間に追い詰められた。
目の前で、ディックが倒れこんでくる!
避けられる状況ではなかった。
ルナはこらえきれずに目を閉じた。
「ここまでか……!」
レイですら、観念しかけた。

「待てっ!!」
次の瞬間、一行の目の前に新たなポケモンが現れた。
ヨノワールだった。
「この者達は、ここを荒らしにきたのではない!」
ヨノワールは、ディックを押し返す。いとも簡単に。
「おい、お前は何者だ!」
今度はエウロスの声が響く。
「私はヨノワール!探検家だ!
 あなた達の怒りはもっともだ!
 特に……今起きている自然災害のせいで食べ物が不足しているとあれば
 外敵に対して攻撃的になるのは当然だ!
ヨノワールは、そのまま話を続ける。
「この者達が、あなた達の縄張りを侵したことは詫びよう!
 しかし、それは決してあなた達に被害を与えるためではない!
 用が終わり次第、我々はすぐにここから立ち去る!信じてくれ!!」
しばらく、沈黙が流れた。
「信じていいんだな、ヨノワールとやら」
「いいだろう、少しだけ時間をやる」
「用が済んだら、すぐ帰れよ」
「ボス、行きましょう」
4兄弟とディックは、その場を去っていった。

 「はぁーーーーーー……」
ロットは大きく息を吐いた。緊張が解けたのだ。
「なんだか知らないが、感謝するぜ」
と、グレア。
「いえいえ、いいんですよ。それより、ポケモン探しですよね。行きましょうか」
ヨノワールの協力を得て、ウィンズは依頼主のトーンを救出した。
長く迷っていたのか、体力を消耗しているようだったが、とりあえずは大丈夫なようだ。
こうして、遠吠えの森での救助は終了した。

 ポケモン広場で。
傷の手当をするトーンや、スティラ達と一旦別れたウィンズの5匹は
ヨノワールと話をしていた。
ふと、ルナは何かを思いついた。
「あの……ヨノワール、さん?」
「はい、なんでしょうか?」
それから、一行はヨノワールに問う。
記憶を失いポケモンになった人間、レイのことについて、何かを知らないかと。
今までのことも、ひとつずつ説明する。
そして、アリアを助けた時の話になり。
「突然目まいがして、それから何故かアリアとタピルの声がしたんだよね……」
「!!」
その言葉に、ヨノワールは驚いていた。
「そ、そ、それはっ!時空の叫びでは!!」
ヨノワールの言葉に、ウィンズの5匹も驚いた。
「な、何か知っているんですか!?」
少し考えて、ヨノワールが話す。
「物に触れることで、未来や過去が見える能力……
 それは、時空の叫びと呼ばれているものです」
話が続く。
「物やポケモンを通じて、時空を超えた映像が夢となって現れる……
 そんな能力があるというのを聞いたことがあります」
「時空の叫び……そんな能力が……」
と、ここでヨノワールが質問を投げかける。
「ところで、あなた……名前は?」
その目線はレイに向いている。
レイは自分の名を名乗った。
「!!!」
その返答に、ヨノワールは激しく驚いた。
「あれ?どうしたんですか?」
「い、いいえ……何でもありません……」
その時、かすかにヨノワールの表情が変わった。
ほんの少しだけ、笑ったのだ。
しかし、それに気づいたのはレイとルナだけだった。
少しの間を置いて。
「うん、よろしい!これも何かの縁です。
 レイさんがなぜポケモンになってしまったのか、
 その謎を解くのに、私も協力しましょう!」
意外な、しかし願ってもない申し出だった。
「え、い、いいんですか!?」
「はい。まあ、正直申しますと……
 私にわからない物事があるのはくやしい!というのが本音なんですが!」
ここでヨノワールは、思い切り笑った。
「ハハハハハハ!」

 そんな時だった。
「みなさーん!」
スティラの声がした。
「トーンさんが、準備ができたとのことです!」
「待ってました!」
「やっとか!」
ウィンズのポケモン達も、トーンの歌を聴くのが楽しみだったのだ。
「ヨノワールさんも一緒にどうですか?」
「いえ、せっかくですが、私はもうしばらくここにいます」
スティラに誘われるが、ヨノワールは丁重に断った。
「はい、わかりました」
来た道を引き返すスティラの後を、一行はついていった。

 ポケモン広場に戻ると、トーンの他にも多くのポケモン達が集まっていた。
「皆さん、長らくお待たせしました」
トーンは、集まったポケモン達にあいさつの言葉を述べる。
「この度は危ないところを探検隊ウィンズの皆さんに助けていただき、感謝しています」
ウィンズを見ながら、トーンが話す。
観衆の大拍手に、レイは片手を上げて応えた。
「拙い私の歌ではありますが、皆さんどうぞご清聴お願いします」
そして、トーンは歌い始めた。
ウィンズの5匹も、スティラとアリアの兄弟も、クルスもライリも、他のポケモン達も、
集まった全員が、トーンの歌に聴き入っていた。
辺りにはすっかり夜の闇が広がり、星が輝いている。


 その頃。
1人広場の外に残っていたヨノワールは、笑いをかみ殺していた。
しかし、それは誰にも気づかれることはなかった。


また別の場所で。
「フレッド、どうした?」
突然歩みを止めるフレッドに、ビリーが声をかける。
「大気がざわめいておる」
「はぁ?」
あきれ半分にレオンが反応する。
「何かが……始まろうとしているのか?」
そして、フレッド達の足はポケモン広場の方に向いた。


 ところ変わって、霧の湖。
「やはり、あの時……あの者達の記憶は消しておくべきでした」
目の前の敵を前に、ユクシーは傷つきながら言った。
「なんのことだか分からんが、違うな。オレは誰かに聞いてこの場所に来たわけじゃない。
ここに時の歯車があると、前から知っていたんだ」
闇夜の中に、緑の風体が潜む。
その眼光が、鋭く光る。
「悪いがもらっていくぞ!3つ目の……時の歯車を!!」
ほどなくして、霧の湖の時は止まった。


 この世界に生きるポケモンのほとんどは、まだ知らなかった。
この時すでに、終わりの始まりが来ていることを――



Mission13。今回は15Pもかかった……。
探検隊のChapter-10で、ついにヨノワールが登場。
グラエナ4兄弟が口上を言ったのは、レンジャーのゴーゴー4兄弟から4兄弟つながり。
そしてボスがカビゴンなのは、去年12月に救助隊をプレイして思いついたネタ。
今回登場したコロトックのトーンは、名古屋でトレードにて入手したポケモンです。
次回も登場の予定。

その次回……全力を挙げて書きます。
本気の気合いを入れなければならないことは、この僕が一番よくわかっている。

2008.06.09 wrote
2008.07.10 updated



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